七輪通信 1998.08.21

第5号

全国の七輪愛好者のみなさまコンニチワ。「七輪通信」第5号をお届けいたします。七輪通信の創刊号でお伝えしたテレビ番組の内容には(わたしの見間違い聞き違いを含め)多くの誤りがあるとの事。そこでわたしは七輪の産地である石川県珠洲市へ行ってまいりました。今回はそのレポートです。

【珠洲に七輪を訪ねて】前編

七輪の聖地である珠洲市は能登半島の突端の町だ。金沢市内から車で能登有料道路を使っても約150キロ、3時間ほどの行程である。

我々が訪問した日、石川県内には大雨洪水注意報が出ており能登有料道路では前が見えないほどの豪雨であったが、高速道路の終点の穴水から先はとても良い天気。

到着した珠洲市は海沿いの静かな町。落ち着いている、すなわち活気が無いという意味でもあるが、これは日本の多くの町村が直面している共通の問題だろう。

最初の訪問先は丸和工業さん。

大きなスケールの地図しか持っていなかったので、近くと思われる所から電話をして場所を教えてもらう。2度目の電話の後は、脇田氏の奥さんが工場の前に出て待っていてくれた。

本当は真っ先に製作行程を見たいのだが、まずは奥さんに製品を見せてもらいながら説明を伺う。初めて見る切り出しコンロは色白で凛とした気品を漂わせている。わたしはこういったモノに滅法弱いんです。

見るといろいろ欲しくなってしまうのだが、もっともベーシックな丸形の七輪を2種類ほど購入。普通のサイズが5.500円ほど。

妻が魚の踊り串を立てられる大型のコンロを見て「これもいいね」と言うと、奥さんが展示品でちょっと汚れているからと、汚れているとはとても言えないそれを戴いてしまった。恐縮である。

奥さんとひとしきり話をする。テレビ等で紹介されたのが幸いしたのか製品の引き合いは少なくないようだ。彼女の明るい表情を見て商売の好調を察し、安心する。

その後、工場内を見せてもらう。作業は年輩の方々5名ほどで行われていた。それぞれ分担して機械を使った削り出し作業、手作業での花切り加工、金属枠の取付等が黙々と進められている。

製品の種類は非常に多い。

旅館で出る固形燃料を使う小さなものから、普通の七輪の数倍の大きさの物まで様々だ。形も丸や長円形のもの、正方形や長方形のもの、サイズもそれぞれ数種類ある。中には外側に和紙を貼った物や、外側を黒く塗ったものもある。これは焼肉屋からの注文で油染みで汚く見えるのを防ぐためだそうだ。

やや緑がかった濃い灰色の珪藻土のブロックから削り出したばかりのコンロを持ってみる。それはひんやりとしてずしりと重い。製品の倍はありそうに感ずる。珪藻土に含まれる水分がこの重さとなっているのだろう。これを焼く事で水分が抜け、断熱材として優れた多孔質となるのだ。

お仕事の邪魔にならないよう一通り工場内を見学したところで、切り出した珪藻土のブロックを積んだトラックで社長の脇田又次氏が戻ってきた。

彼には前の週にお邪魔することをFAXで伝え、その返事を電話でいただいた事もあったので、素晴らしい笑顔で歓迎してくれた。

以前に見た丸和工業さんを取り上げたテレビ番組では、消えゆく職人技という様なコンセプトで展開していたせいか暗く湿ったいイメージで構成していたが、それは単なる演出でしかなかった。

脇田氏には削り出したコンロを焼成する窯等を案内していただいた。

4畳ほどの広さの窯の中には、すでに成型の終わったコンロが7割ほど積み重ねられている。これを2昼夜焼き続けると肌色がかったきれいなベージュに変容するのだ。

切り出したままの珪藻土を削って焼くため、この焼成の段階でヒビが入ってしまう物も少なくないとの事。廃棄された物の中にはちょっと見ただけではヒビが入っている分からない様な物まである。

脇田氏がそれを拾い金槌の柄で叩き「ヒビが入っているかどうかは音で分かる」と説明してくれる。もっとも小さなヒビなら金属枠もあるので使用には差し支えないそうである。

転がされた中のいくつかを叩き「これなら普通に使うのに差し支えないから持って行きなっ」と角形のコンロを戴いてしまった。またも感激である。焼成しただけで金属の枠も何もないコンロは裸の赤ちゃんの様。大事にせねば。

図にのったわたしは最後にこちらからお願いをしてしまう。珪藻土の削りくずの山に転がされていた焼成前の不良品らしきコンロ一歩手前のものをねだり、戴いてしまったのだ。

本音は珪藻土を切り出す現場も見てみたいところであるが、たかだか2−3個の七輪を求める客の分際で、これ以上の仕事の邪魔は失礼と思い丁重に礼を言い辞する。奥さんがわざわざ外まで出て見送ってくれた。

脇田ご夫妻の素敵な笑顔と、素晴らしい手仕事を拝見しとても充実した気分だ。東京から車で700キロの道程を来る価値は充分にあった。多分わたしはまたこの地を訪れることになるだろう。

次号につづく

【後記】

今回の旅には七輪も連れていきました。山梨では自分で採らせてもらった椎茸を。石川では近江市場で買った松茸を焼きました。焼き物ではありませんが近江市場では鰆(サワラ)のトロはお薦めです。関東ではあまり生食しませんが鮪に劣りませんよ。

魚も良いですが夏は野菜が安くておいしいですね。茄子、ピーマン、シシトウにトウモロコシ等々・・・と言いつつ、サンマがそろそろおいしい季節となってきました。私すでに「オレは炭火で焼いたサンマ以外は食わネェ」宣言をしていますが皆さんはどうですか(^_^)

©スギヤマカツヒサ@東京都江東区 Status: 2002-12-19改訂

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